研究概要 |
本研究では,難治性気道炎症疾患嚢胞性線維症(CF)におけるTLR2遺伝子の発現および応答性の上昇とそのメカニズムの解明を種々の方法を用いて行った.CF気道上皮細胞におけるTLR2発現上昇のメカニズムを解明することを目的とし,CF細胞におけるA)NF-κB経路の異常,B)ERストレスの過剰活性化,C)エピジェネティック遺伝子制御機構の破綻などの可能性に関して,種々の分子生物学的検討を行った.上記A)の可能性を検討するため,NF-κB阻害作用を有するIκBαのドミナント変異体を導入し,実験を行った.その結果,CF細胞におけるTLR2の発現上昇には,NF-κBのシグナル伝達経路に異常を来してはいなかった.次に,上記B)の可能性を検討するため,ERストレス誘導剤であるTunicamycin, Thapsigargin, DTTを用いてそのTLR2発現に対する影響を観察したが,全く効果を示さなかったことから,変異CFTR蓄積によるERストレスの過剰活性化は,TLR2発現に関与していなかった。最後に,上記C)の可能性を検討するため,DNA脱メチル化促進剤である5-azacytidine(5-AC)を16HBE14o-に処理したところ,TLR2プロモーター上における脱メチル化が引き起こされ,その遺伝子発現が増強されたことから,気道上皮細胞におけるTLR2の発現はDNAメチル化によって調節されていることが示唆された.さらに,bisulfiteを用いたsequence法により16HBE14o-細胞およびCFBE41o-細胞におけるTLR2プロモーター領域のDNAメチル化を数値化したところ,CFBE41o-細胞において,顕著に脱メチル化されていることを見い出した.これらの結果より,CF患者でみられる慢性気道性炎症は,TLR2のエピジェネティックな発現上昇により引き起こされている可能性が示唆された.
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