研究概要 |
我々は,緑嚢菌が鞭毛成分フラジェリンを介して細胞膜上に発現する膜結合型ムチンMUC1に結合することを明らかにした.既にフラジェリンはToll様受容体(TLR)5への結合により細胞内へシグナル伝達を行い,炎症性サイトカインの発現を惹起することが知られている.MUC1はその細胞内領域(CT)に種々のシグナル伝達に関わる領域があることから,フラジェリン-TLR5と同様にフラジェリン-MUC1の結合によっても細胞内へシグナル伝達が発生すること,更にそのシグナル伝達はフラジェリン-TLR5を介したシグナルとクロストークを生じ得ることを容易に想起させる.そこで本研究では細胞膜上に発現したMUC1によってフラジェリン誘導性シグナル伝達が調節される可能性について検証した.その結果,ヒト腎上皮細胞HEK293おいて,MUC1の発現量依存的にフラジェリン-TLR5を介するNF-κB活性およびIL-8遺伝子発現を抑制した.そこで,MUC1の各種変異体を用いて,その抑制メカニズムについて検討した.その結果,細胞外の繰り返し配列(TR)もしくはCTそれぞれの欠失によってMUC1によるNF-κB活性の抑制効果が消失した.従って,TRがフラジェリンを受容し,CTを介して細胞内へシグナル伝達を行う事で,NF-κB活性が抑制されることが示唆された.更にMUC1-CTは8個のチロシン残基を有し,それらは各々な刺激に応じてリン酸化を受け,細胞内へシグナルを伝達する.そこで,本研究におけるチロシン残基のリン酸化の影響について各々の変異体を用いて検討した結果,MUC1-CTの複数のチロシン残基がリン酸化されることによってNF-κBの抑制シグナルが伝達されている事が示唆された.本研究は膜結合型ムチンMUC1がフラジェリンに対する受容体として機能し,生理活性を調節する可能性を示した初めての知見である.
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