研究概要 |
環境汚染重金属であるカドミウムの血管細胞毒性を軽減することが知られている亜鉛について,プロテオグリカン合成に対する作用を検討し,以下の知見を得た。 ウシ大動脈由来血管内皮細胞は主としてヘパラン硫酸プロテオグリカンの大型分子種であるパールカンを産生しているが,亜鉛は増殖期の内皮細胞に対して,パールカン分子のコア蛋白合成に影響を及ぼさなかった。また,内皮細胞が産生するヘパラン硫酸糖鎖の二糖組成を定量したところ,細胞層において,GlcA/IdoA-GlcNAc,GlcA/IdoA-GlcNSおよびGlcA/IdoA(2S)-GlcNSの構成二糖が検出された。一方,培地画分においてはさらにGlcA/IdoA-GlcNS(6S)およびGlcA/IdoA(2S)-GlcNS(6S)も検出された。しかしながら,これらの構成二糖の割合は亜鉛により変化せず,亜鉛はヘパラン硫酸糖鎖の形成においても影響を及ぼさないことが示唆された。また,コンドロイチン/デルマタン硫酸糖鎖の二糖組成についても検討を行ったが,亜鉛による有意な変化は認められなかった。我々は先に,亜鉛が内因性FGF-2依存的に内皮細胞の増殖を促進させることを明らかにしているが,FGF-2の活性発現に重要なヘパラン硫酸プロテオグリカンの合成に対して亜鉛が影響を及ぼさないことが示されたことから,亜鉛の内皮増殖促進作用はプロテオグリカン代謝とは独立した作用機序で起こることが示唆された。 また,環境汚染金属であるヒ素はカドミウムや鉛と同様に動脈硬化症を含む血管病変の危険因子の一つとされていることから,内皮細胞のプロテオグリカン代謝に対する亜ヒ酸の作用を検討したところ,亜ヒ酸が非特異的な細胞傷害性を伴わずに,ヘパラン硫酸プロテオグリカンとコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの合成を共に抑制することを明らかにした。
|