研究概要 |
心筋活動電位の再分極過程を担う心筋緩徐活性型遅延整流性K^+電流(I_<Ks>)は,低浸透圧刺激や膜の機械刺激による細胞膜の伸展により増大する.本研究は,この背景となる細胞内機序を検討し,新しいI_<Ks>チャネル調節機構ならびにその分子基盤を明らかにしようとするものである.近年,膜構成リン脂質であるホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP_2)は種々のイオンチャネルの機能を直接修飾することが知られており,また細胞膜の伸展刺激によりその局在が変化することが知られている.そこで本研究は,PIP_2による心筋I_<Ks>チャネルの調節機構について検討を行った.モルモット単離心筋細胞に全細胞型パッチクランプ法を適用し,I_<Ks>チャネル電流をリアルタイムで記録した.パッチ電極を介してPIP_2をモルモット心筋細胞に負荷すると,I_<Ks>チャネル電流は徐々に減弱した.一方,抗PIP_2抗体を細胞内へ投与するとI_<Ks>の増強が観察されたことから,細胞膜に内在するPIP_2がI_<Ks>チャネルに抑制性に作用していることが明らかとなった.また,外因性に投与したPIP_2は低浸透圧刺激によるI_<Ks>の増大反応を部分的に抑制し,膜の機械的伸展が膜PIP_2の減少によりI_<Ks>チャネルの活性を増強する可能性が示唆された.現在,I_<Ks>チャネルはKCNQ1ならびにKCNE1の2つのサブユニットで構成されると考えられている.本研究は,PIP_2によるI_<Ks>チャネル制御機構の分子基盤を明らかにするために,KCNQ1ならびにKCNE1により再構築したK^+チャネルを用いて,PIP_2による修飾機構を検討した.結果,細胞膜PIP_2を減少させると考えられるGq-PLC連関型受容体の刺激は心筋I_<Ks>を増強するものの,KCNQ1/KCNE1チャネル電流には反対に抑制作用を示すことが明らかになった.このことは,少なくともPIP_2による調節においてKCNQ1とKCNE1だけでは心筋I_<Ks>を完全に再構築できないことが示唆する。このように,本研究は心筋I_<Ks>チャネルの新しい修飾因子としての膜PIP_2の役割が明らかにするとともに,心筋I_<Ks>チャネルの分子基盤の解明に新たな展開の必要性を提示するすることができた.
|