研究概要 |
免疫系を担う細胞の一つであるB細胞の分化に、転写因子Pax5とbHLH型転写因子E2Aは重要な役割を果たしている。さらに、これらの転写因子はB細胞の分化と同様に、活性化においても重要な役割を果たしている。例えば、活性化B細胞特異的な現象である抗体のクラススイッチ組換えと体細胞高頻度突然変異に必須である酵素AID(activation-induced cytidine deaminase)は、Pax5がその発現を活性化している。また、E2AはIgE産生を活性化する。そして、分化抑制因子Idは、これらの転写因子Pax5,E2Aの機能阻害因子として知られ、実際、Idファミリーの一員であるId2はPax5,E2Aの機能を阻害することでAID発現やIgE産生を抑制している。したがって、Id2はB細胞活性化の負の制御因子であると考えられる。 一方、E2AとPax5はB細胞分化のマスター遺伝子ともいうべき役割を担っていることから、Id2はB細胞の活性化のみならず分化においても重要な役割を果たしている可能性が考えられる。そこで、これを証明するためにId2遺伝子の欠損マウスを用いて、B細胞分化の関係遺伝子の発現制御へのId2の関与の有無を検索した。その結果、B細胞分化マーカーの一つであるCD19細胞表面抗原の発現がId2によって減少することが認められた。このCD19の発現はPax5によって制御されていることから、Id2によってPax5の転写活性が阻害され、CD19の発現が減少したものと考えられる。したがって、Id2はB細胞の分化を抑制する役割を持つことが示唆された。現在、Pax5,Id2によるCD19発現制御の分子機構の詳細を、分子生物学的手法(RT-PCR法、ウェスタンブロット、ゲルシフトアッセイなど)を用いて解析中である。また、CD19の他にも、Id2によって負の制御を受けていると思われるB細胞分化関連遺伝子を複数同定しており、Id2がそれらの発現を制御する分子機構の解析も開始している。
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