研究概要 |
アナンダミドをはじめとする長鎖脂肪酸のエタノールアミド(N-アシルエタノールアミン,NAE)は,虚血脳や心筋梗塞などの病変部位で著しく増加し,鎮痛や抗炎症などの多彩な生体作用を発揮する脂質メディエーターである。動物組織においてNAEの生体内レベルの調節に関与する加水分解酵素としては,中性からアルカリ性で働く脂肪酸アミド加水分解酵素の研究が先行している。一方,同様の反応をもっぱら酸性条件で触媒するアイソザイム(N-アシルエタノールアミン水解酸性アミダーゼ,NAAA)についての解析は遅れている。本研究課題の初年度においてNAAAのリコンビナント酵素の性状解析を行ったが,2年目にあたる本年度は,NAAAの強い発現が明らかになっているマクロファージにおける同酵素の機能に焦点を当て,以下の成果を得た。 RT-PCR法により,RAW264.7など種々のマクロファージ様細胞でFAAHとともにNAAAのmRNA発現を認めた。また,NAAA選択的阻害剤(N-シクロヘキサンペンタデシルアミン)とFAAH選択的阻害剤(URB597)を用いることで,RAW264.7細胞のホモジネートに,NAAAとFAAHの両酵素によるアナンダミド加水分解活性を認めた。さらに,浮遊細胞を用いて細胞外から加えたアナンダミドなどの種々のNAEの分解活性を測定したところ,活性は前述のNAAA選択的阻害剤およびFAAH選択的阻害剤でそれぞれ部分的に阻害され,両者の併用によりさらに高い阻害効果を認めた。以上の結果から,マクロファージにおいて,NAAAとFAAHが協調してアナンダミドを含むNAEを加水分解することが示唆された。本研究は,従来もっぱらFAAHで説明されてきたマクロファージにおけるNAEの代謝に,新しい観点を提示するものである。
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