研究概要 |
解析の対象を難治性である膵がんとして,腫瘍発生初期段階から進行がんに至る過程で腫瘍に対する宿主の免疫応答性の変化を検討した.前年度に報告した膵管内乳頭状粘液腫瘍(IPMTs)70症例を用いた膵多段階発がん過程における樹状細胞の動態に関する検討に加えて,本年度は制御性T細胞の動態について検討した.制御性T細胞は免疫寛容において中心的な役割を持ち,腫瘍免疫にも抑制的に寄与することが示唆されている.そこで,制御性T細胞の機能発現に不可欠な転写因子FOXP3に特異的なモノクローナル抗体を独自に樹立し,これを用いてCD4^+T細胞に対する制御性T細胞の割合について検討した.(1)国立がんセンター中央病院で外科的切除された浸潤性膵管がん200症例の検討から、がん部に浸潤する制御性T細胞の頻度は,非がん部炎症巣におけるそれに比べて有意に(p<0.0001)上昇することが示された.(2)制御性T細胞の頻度の違いを様々な臨床病理学的因子と比較すると遠隔転移・進行したpTNM病期と有意に関連し,また膵がんの中で制御性T細胞高頻度群は独立した予後不良因子(p<0.0001)であることが示された.(3)前がん病変に対する検討は,約70症例のIPMTsに加えて,近年,多くの浸潤性膵管がんの前がん病変であると認識されるに至ったPancreatic intraepithelial neoplasias (PanINs)約80病変を用いた.制御性T細胞の頻度は,前がん病変の進行に伴って有意に増加していくことが両病変において認められた.以上,前がん病変の段階から既に,免疫監視から免疫寛容に向けた宿主免疫応答性の変化が始まり,病変の進行に伴いその変化がより進んでいくこと,それには制御性T細胞を介した抗腫瘍免疫の低下が重要であることが示唆された.同時に浸潤性膵管がんにおいて,制御性T細胞の浸潤頻度が独立した予後因子であることが示された.
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