研究概要 |
本研究の目的は肺癌細胞の形態異常の原因を、細胞膜リン脂質(PIP3(3,4,5))の挙動の変化を手がかりにし解明することである。昨年度までの研究で、不死化気道上皮細胞にKRASがん遺伝子を導入することで、細胞形態の紡錘状変化を示すこと、上皮間結合の形成に不安定化が生じていることを明確にした。また、不死化気道細胞における細胞膜リン脂質の挙動を蛍光プローブ(PH domain-EGFP fusion)導入によって解析した結果、低細胞密度条件下では葉状仮足部に、高細胞密度条件下では上皮間結合部へ集積することを明らかにした。本年の研究では、蛍光プローブを導入した不死化気道細胞にKRASがん遺伝子、PIK3CAがん遺伝子の導入を行い、細胞膜リン脂質の挙動と細胞形態の観察・解析を行った。これらのがん遺伝子の導入によって、低細胞密度条件下では多数の仮足状突起物の形成と同部への細胞膜リン脂質の集積が観察された。一方、高細胞密度条件下では上皮間結合形成が不規則になり、細胞膜リン脂質は結合部以外の部位にも点状に散在する像が観察された。更に、KRASやPIK3CAが活性化状態にある数種のがん細胞株(TKB2,H358,H460)に蛍光プローブの導入を行い、細胞形態と細胞膜リン脂質の挙動を観察した結果、がん遺伝子導入不死化細胞と類似し、低細胞密度条件下では多数の仮足状突起物の形成と同部への細胞膜リン脂質の集積、高細胞密度条件下では上皮間結合形成の不規則性と細胞膜リン脂質の斑点状の集積像が観察された。これらの結果から、KRASあるいはPIK3CAの活性化を介した細胞膜リン脂質の異常な蓄積が、がん細胞の形態異常(異型性)を引き起こす原因と一機構であることが示唆され、申請期間内に当該研究目的の大凡は達成された
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