研究課題
若手研究(B)
細胞内寄生菌はファゴソームとリソソームの融合を阻止することによってマクロファージ内で増殖するものと考えられている。このメカニズムは未だ不明な点が多いが、申請者のこれまでのブルセラ菌を用いた実験により、菌の細胞侵入時におけるマクロファージ表層に存在する分子の選別が重要であることが示された。ブルセラ菌を含むファゴソームにはリピドラフトの構成分子が集積し、膜貫通型蛋白質が排除される。我々の研究と同時期に細菌以外のウイルス、原虫の感染にもリピドラフトの関与が示唆されている。そこで本研究ではリピドラフトが微生物感染におけるゲートウェイとしての機能を持つという仮説を立て、これを実験的に立証し、そこから得られた成果を基盤にした新たな感染防御法の構築を模索した。具体的には、ブルセラ菌の産生する病原因子が宿主細胞に及ぼす作用を解析し、菌のマクロファージ内増殖のメカニズムの解明を試みた。ブルセラ属菌に対するマクロファージ上のレセプターはいくつか存在すると考えられる。本研究ではSR-AがB.abortusのLPSに対するレセプターとしての役割を持つことが示された。また、B.abortusのLPSはネズミチフス菌のLPSと抗原性は異なるが、SR-Aとの結合様式に関しては類似性が認められた。SR-Aを介した細胞内シグナル伝達機構は不明な点が多い。膜貫通型蛋白質として知られるSR-Aが菌の感染時にリピドラフト中に集積することから、細胞内へのシグナル伝達に何らかの役割を持つことが推測される。virB4変異株の感染では、リピドラフトにおけるSR-Aの集積が認められないことから、LPS以外の細菌側因子がSR-Aのリピドラフトへの集積に何らかの関係があると考えられた。これらのことから、細菌側の病原因子がSR-Aのリピドラフトへの集積を促進し、SR-Aを介したシグナル伝達が菌の細胞侵入および細胞内増殖に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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