研究概要 |
本年度は、神経ガス曝露を証明する目的で、昨年度のサリンアダクトの分析に引き続き、ヒト血液中のブチリルコリンエステラーゼ-神経ガスアダクトのLC-MS/MSによる分析法を検討した。 精製ヒトブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)に神経ガスを添加し、アダクトを形成した。SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動の後BuChEに相当する86kDa付近のバンドを切り出し、キモトリプシンを用いてin gel digestionを行い、その後、Micromass Q-TOF2およびAgilent LC-MSD Trapを用いたLC-MS分析を行った。 サリン、ソマン、VXアダクトの消化物のLC-MSの結果、m/z1068.5,1054.5,1110.5の抽出イオンクロマトグラム(EIC)上、22.3分、20.1分、26.2分にそれぞれ新たにピークが観測され、アルキルメチルホスホニル化したペプチド断片と認められた。ソマンアダクトについてはm/z1026.5のEIC上、21.9分にもピークが観測され、aging産物であると認められた。MS/MSスペクトルを測定したところ、プレカーサイオンを除いてほぼ同一のフラグメントパターンが得られた。このことから、MS/MS分析のコリジョンに際しては、まずアルキルメチルホスホン酸(またはメチルホスホン酸)部位が脱離することが判明した。 ヒト血漿にVXを加え、精製を行った試料からもVX付加ペプチドを検出した。血漿に低濃度のVXを加え部分的にBuChE活性を阻害した試料を作成し、5mLの血漿試料から精製を行った場合に、VXアダクトペプチド断片が検出可能なVXの濃度およびその際の最低検出可能活性阻害度(Minimum Detectable Inhibition Level)を概算したところ、約2×10-8M、1%活性阻害であった。
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