研究概要 |
1、UDP-Nアセチルガラクトサミン転移酵素(GalNAc transferase)に対する抗体の作製: GalNAc transferaseアイソザイム(T1,T2)のアミノ酸配列において親水性および抗原性に富む配列をコンピューター解析し、ペプチドを合成後、ウサギへの免疫により抗血清を作製した。また、ネブラスカ州立大学エプリー癌研究所、Hollingsworth博士より5種類のGalNAc transferaseアイソザイム(T1,T2,T3,T4,T6)に対するマウスモノクローナル抗体を得た。 2、免疫組織染色: 上記の抗体を用い、通常型膵癌あるいは膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal papil lary mucinous tumor ; IPMT)の手術材料における発現を免疫組織染色(ABC法)により検討した。なお、発現の程度は染色陽性細胞数の比率で4段階に分類した:(-)〜5%、(+)5〜20%、(++)20〜80%、(+++)80〜%。 3、2例の通常型膵癌組織においてT1,T2の発現を検討したが、いずれの発現は認められなかった。 4、IPMT-腺腫および腺癌各2例で5種類のアイソザイムの発現をスクリーニングした。その結果、IPMT-腺腫の1例でT1の弱い発現(+)が、IPMT-腺癌の1例でT1の強い発現(++)が見られた。腺腫および腺癌とも、他の1例ではT1の発現は見られず、また他の4種類のアイソザイムの発現も見られなかった。 5、上記の結果および培養膵癌細胞株においてT3の発現が見られたとの報告をもとに、さらに約21例のIPMT(腺腫11例、腺腫/腺癌ボーダー3例、腺癌7例)でT1およびT3の発現を検討したが、いずれの発現も確認されなかった。 6、以上の結果より、通常型膵癌ではT1の発現は認められないが、IPMTの一部ではT1の発現の見られる腫瘍のあることが示された。一方、培養膵癌細胞株において発現が報告されているT3の発現はIPMT症例では認められないことが示された。これらの結果は、膵癌とIPMTは同じ膵管上皮細胞由来の腺癌であるが、粘液の主成分であるムチン型糖蛋白の合成に直接関与する糖転移酵素の発現は異なることを示唆する。同糖転移酵素の発現の違いは粘液産生能と関連している可能性があり、今後さらに多くのIPMT症例および通常型の膵癌症例においてGalNAc transferaseアイソザイムの発現を検討する意義が示された。
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