研究概要 |
2004年より当科で経験した計23名の急性脳炎・脳症患者の血清および髄液検体を用い、抗GluRε2抗体の測定をリコンビナント蛋白を用いたウエスタンブロット法により施行した。IgM型およびIgG型抗GluRε2抗体を血清中に9名、髄液中に6名ずつそれぞれ検出した。疾患別では非傍腫瘍性非ヘルペス性辺縁系脳炎(NPNHLE)において髄液IgM型抗GluRε2抗体の陽性率が高値であった(n=6,感度66.7%,特異度87.5%)。また中枢神経ループスにおいて髄液IgG型抗GluRε2抗体の陽性率が高値であった(n=6,感度60%,特異度82.4%)。一方、抗体と臨床症状(痙攣重積、記憶障害、精神症状・異常行動)および頭部MRI所見との関連性の検討では、痙攣重積と髄液中IgM型抗GluRε2抗体に関連性がみられた(p<0.001,フィッシャー直接確率)。さらに急性期にIgM型抗GluRε2抗体が陽性であったNPNHLE患者4例の血清を用い免疫組織学的分析を行った結果、全例で特異的に海馬および大脳皮質ニューロンの細胞質が染色性を示した。ちなみにこれら症例のVGKC抗体は陰性であった。以上の結果より髄液中IgM型抗GluRε2抗体陽性成人脳炎は時にNPNHLEの臨床像を呈することがあり、同時に同抗体は診断マーカーとなりうる可能性が示唆された。また抗GluRε2抗体陽性でかつ抗VGKC抗体陰性のNPNHLE症例血清より、二次元免疫プロットおよび高感度ナノLC-MS/MSシステムを用いて抗神経抗体の検出を試みた。結果、Peroxiredoxin-2, Phosphoglycerate mutase 1, Beta-actin, Alpha-actin-2, Isocitrate dehydrogenase subunit alpha, Pyridoxal kinase(Pyridoxinekinase)に対する自己抗体を新たに同定した。今後NPNHLEの病因解明のため、これら自己抗体の特異性に関する検討と、その他新規自己抗体の検索が必要であると考えた。
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