研究概要 |
糖尿病や動脈硬化の根底にあるインスリン抵抗性には、炎症や酸化ストレスが関与しており、細胞内のNF-κB経路の活性化が重要と考えられている。そこで、NF-κB経路活性化を抑制するIκB変異体を過剰発現させたトランスジェニックマウスを作製し、インスリン抵抗性や動脈硬化への影響を検討する研究を行った。われわれは以前に、培養細胞(3T3-L1脂肪細胞)を用いて、変異IκBの過剰発現によりインスリン抵抗性が改善すること、およびそのメカニズムの詳細(細胞内シグナル伝達分子の局在の変化)を報告した(Ogihara T, et al. Diabetologia,47:794-805,2004)。今回の研究では、変異IκBを血管内皮細胞で過剰発現させたトランスジェニックマウスを作製し、まず血管内皮細胞でのNF-κB活性化経路の抑制を確認した。このマウスでは、高齢・高脂肪食負荷などに伴う耐糖能低下やインスリン抵抗性増加が改善することが明らかになった。さらに、マウスにアンジオテンシンIIを持続注入し血圧を上昇させる実験を行ったところ、このトランスジェニックマウスでは血圧上昇が抑えられることが分かった。現在、このマウスを用いて、動脈カフ障害による内膜肥厚が抑制されるかどうかの検討や、ApoEノックアウトマウスと交配させた場合の動脈硬化発症が抑制されるかの検討を進めている。このマウスにおいて、血管局所でのNF-κB活性化経路の抑制が、なぜ全身のインスリン抵抗性や高血圧を改善しているかが今後の重要な検討課題と考えている。将来的にはこれらの結果を、NF-κB活性化の抑制に基づいたインスリン抵抗性治療および動脈硬化抑制薬剤の開発に役立てたい。
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