研究概要 |
多発性骨髄腫は大量化学療法や造血幹細胞移植によっても治癒が難しい予後不良の疾患である。高齢者に多いため治療成績を向上させるためには新たな概念に基づく治療法の開発が急務である。そこで、生体侵襲の少ない新たな骨髄腫の分子標的療法の開発を目的に生薬成分diterpene誘導体トリプトライドの骨髄腫細胞に対する効果について検討した。トリプトライドは極めて低濃度(0〜50nM)かつ短時間(0〜12h)に、種々の骨髄腫細胞株(HS-sultan, IM9, U266, RPMI8226)および骨髄腫患者細胞のアポトーシスを誘導し細胞増殖を抑制した。トリプトライド処理によりRPMI8226細胞はカスパーゼ3の活性化、ミトコンドリア膜電位の低下、細胞質へのSmac/DIABLOの遊離によりアポトーシスが誘導された。解析した種々のアポトーシス関連分子の中では、骨髄腫細胞の生存に重要とされるMcl-1の発現がトリプトライド処理にて蛋白およびmRNAレベルで減少した。Mcl-1発現を転写レベルで抑制している可能性を考え、転写伸長反応を調節するpTEFbキナーゼ(cdk9/cyclin T複合体)およびRNA polymerase IIカルボキシル末端領域(CTD)リン酸化に対するトリプトライドによる抑制効果をWestern blotを用いて検討した。トリプトライドはpTEFbキナーゼ複合体を形成するcdk9およびcyclin Tのリン酸化を早期に抑制し、更にその下流に存在するRNAポリメラーゼIIのCTDリン酸化を抑制することが明らかとなった。トリプトライドは、転写伸長反応を阻害することによりMcl-1をmRNAレベルで抑制し、アポトーシスを誘導すると考えられた。以上の結果より、生薬成分トリプトライドは生理活性物質であり、pTEFbキナーゼ、Mcl-1を標的とした生体侵襲の少ない新たな多発性骨髄腫の分子標的治療薬となり得る可能性が示された。
|