研究概要 |
1)定量的指標を用いた読字障害児の認知特性の評価 平仮名の習得に困難を認める読字障害児を対象として、(1)音韻認識・操作課題、(2)聴覚弁別課題、(3)視覚認知・記銘課題、(4)自動化課題、(5)言語性記憶課題を行った。読字障害児の全例が音韻認識における障害を示し、さらに単語逆唱および母音比較課題の成績は音読速度・流暢性と有意な相関を示した。聴覚弁別、視覚認知、視覚記銘、自動化、言語性記憶においても、それぞれ25〜40%の読字障害児に障害が認められたが、これら非音韻障害の併存の有無は読字障害の程度の説明因子とはならなかった。非音韻障害のパターンは症例によって異なり、認知特性によりサブグループに分けることはできなかった。以上より、1平仮名の習得に困難を認める読字障害児においては、説明因子となり得る認知障害は音韻認識障害のみであることが明らかとなった。 2)読字障害児および健常児における機能的MRI研究 1)の結果を踏まえ、読字能力の説明因子となる認知能力指標として音韻認識課題の1つである母音比較課題を用いて機能的MRI研究を行った。解析パラメータとして母音比較課題の反応速度を用いた。撮像はSIGNA 3.0T(GE)により行い、SPM2(Wellcome Department of Neuroimaging Neuroscience, London, UK)を用いて解析した。音韻比較課題において健常児では左前頭葉および頭頂葉により強い活動を認め、読字障害児では両側半球に広範な活動を認めた。反応速度をパラメータとした解析では、反応速度の減少と左下頭頂葉の活動が相関し、反応速度の増加と右前頭葉の活動が相関することが示された。反応速度の速さと相関する左下頭頂葉が音韻処理の主要な神経基盤であると言える。右前頭葉は反応速度の遅い例でより強く活動しており代償的活動と考えられる。本研究の結果より、アルファベット言語における報告と同様に、日本人読字障害児においても左頭頂側頭移行部の活動低下と右前頭葉の代償的活動増加を認めることが確認された。
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