研究概要 |
GSH合成酵素の選択的阻害剤buthionine sulfoximine(BSO)によるGSH抑制が急性リンパ性白血病(ALL)細胞の生存や薬剤感受性に与える影響を検討した。小児患者から樹立した3種類のALL細胞株YCUB-2、YCUB-4、YCUB-5を用いて以下の結果を得た。 (1)BSOは全ての細胞において細胞内GSH濃度を、ほぼ同様に低下させた。(2)100〜500μMのBSOへの4日間の暴露はYCUB-2、YCUB-4の生存をほぼ完全に抑制したが、YCUB-5の生存には影響を与えなかった。(3)YCUB-2、YCUB-4へのBSOの毒性は低酸素濃度下(5%)では減少した。(4)3種類の細胞における内因性酸化ストレスの程度を2',7'-dichlorofluorescein diacetae、hydroethidine、2-[6-(4'-hydroxy)phenoxy-3H-xanthen-3-on-9-yl] benzoic acid (HPF)を用いて測定したところ、前2者で測定される酸化ストレスレベルにおいては差を認めなかったが、HPFによって測定される酸化ストレス(より活性の高い活性酸素種を検出していると考えられる)はYCUB-5において他の2種より低かった。(5)BSO500μM(48時間)はHPFにより検出されるYCUB-2、YCUB-4の酸化ストレスを増強したが、YCUB-5の酸化ストレスは増強しなかった。(6)過酸化水素を用いた外因的な酸化ストレスによるミトコンドリア膜障害はYCUB-2やYCUB-4でより強く認められる傾向があった。(7)BSOによるGSH抑制はALL細胞のcyclophosphamide、L-asparaginase、daunorubicinへの感受性を増強させるが、prednisolone(PSL)抵抗性ALL細胞のPSL感受性は回復し得なかった。 以上から一部のALLの治療においてGSHは標的分子となりうるが、GSHに生存を依存しない細胞では内因性酸化ストレスのレベルが低く、外的酸化ストレスに影響を受けづらい性格を持つことが示された。以上の内容の一部を第43回神奈川小児腫瘍研究会に発表し、奨励賞を受賞した。現在論文作成中である。
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