研究概要 |
本年度は、ES細胞特異的に発現している新規遺伝子ERasの発現を実際の神経芽腫摘出標本で確認し、腫瘍細胞株を用いてERas発現による腫瘍形成能、薬剤感受性の変化について解析した。 1,神経芽腫摘出標本でのERasタンパクの発現 患者または患者家族から遺伝子およびタンパク発現の解析について同意を得た神経芽腫患者摘出腫瘍切片を用いて免疫染色によりタンパクレベルでの発現を確認した。抗体は研究協力者の山中らがすでに作成し、特異性を確認できている抗ERas抗体を用いた。今回用いたほとんどすべての神経芽腫切片で発現を確認したが、特に未分化な腫瘍細胞ほど強い染色性を示した。また、ERasタンパクは細胞内の細胞膜に局在していると考えられた。 2,神経芽腫細胞株でのERasの発現 神経芽腫細胞株では複数の細胞株でERas遺伝子の発現をRT-PCRによって確認していたが、Western blottingによってタンパクレベルでの発現も同時に確認できた。 3,神経芽腫ERas遺伝子強制発現株の解析 ERas発現が確認できている中でも低発現である神経芽腫細胞株SH-SY5Yを用いてERas遺伝子を導入し強制発現株を作成した。これらのクローン細胞株は細胞増殖能に影響は与えない一方で、soft agarを用いた足場非依存性の増殖を亢進し、シスプラチン、ドキソルビシン、エトポシド、ビンブラスチンといった神経芽腫への化学療法剤による細胞死を抑制した。この薬剤耐性のメカニズムにはERas発現による下流シグナル分子のリン酸化を介したERas/Akt pathwayの活性化が重要な働きをしている可能性が示唆された。
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