研究概要 |
ダウン症候群はヒト21番染色体トリソミーにより発症する。発症メカニズムには大きく分けて二つの仮説があり、21番染色体上遺伝子の過剰発現によるというものと、染色体異常そのものが細胞のホメオスタシスに影響し疾患につながるというものである。二つの仮説にはそれらを支持する幾つかの結果が報告されているが、未だ発症機序の解明には至っていない。ヒト21番染色体に相同なマウス16番染色体領域の部分トリソミーであるTs1Cjeマウスは、学習行動障害や顔貌異常を呈し、ダウン症のマウスモデルとしてきわめて有用である。我々は、生後0日目のTs1Cjeマウスにおける体系的な遺伝子発現様式について、約11,300遺伝子を対象としたマウスGeneChip(Affymetrix社)を用い解析した。Ts1Cje及び正常マウスにおいて、発現している遺伝子数は共に40%弱であり差は見られなかったが、Ts1Cjeマウスにおいて発現量に亢進が見られた遺伝子は、16番染色体上のトリソミー領域に集中しており、その発現量は一様に1.5倍程度であった。一方、16番染色体上のトリソミー領域外、或いは16番染色体以外の遺伝子については、発現量に顕著な差は見られなかった。以上の結果から、ダウン症患者でも同様に、21番染色体上遺伝子の発現は約1.5倍に増加していることが示唆され、ダウン症の発症は21番染色体上遺伝子の過剰発現によるとの仮説を支持する結果を報告した(Amano K. et al., 2004)。今後は、トリソミー領域内の遺伝子についてノックアウトマウスを作製し、それをTs1Cjeマウスと交配することにより得られる、トリソミー領域内の特定の遺伝子のみを二倍体に戻したマウスでの解析を行うことにより、精神遅滞の発症機序について解明していきたいと考えている。
|