研究概要 |
本研究は、落葉状天疱瘡抗体によって惹起されるデスモソーム構成分子間の結合の形態的変化と水疱部での細胞接着の離解における極性について尋常性天疱瘡との比較で解析し、その変化における蛋白質リン酸化の関与を検証することで、細胞骨格・接着分子の機能解析を重層上皮である皮膚の特性から細胞の極性に着目し行うものである。昨年度は水疱症患者の生体皮膚におけるデスモグレイン(Dsg)I, IIIを中心としたデスモソーム構成蛋白の分子間相互作用の形態的検討を、落葉状天疱瘡、および尋常性天疱瘡患者、健常人の3群に分け、それぞれ生検で得た皮膚組織の凍結薄切標本で、デスモソーム構成蛋白を二重染色し蛍光顕微鏡で観察した。落葉状天疱瘡では臨床症状の重症度によらず、Dsg Iは、細胞内領域に対する抗体でdot状に観察され、この所見は側面の水平方向の接着より、上下面の垂直方向の接着に関わる方向に偏在してより強く現れていた。本年度は症例数の集積と再現性を検討した。尋常性天疱瘡には抗Dsg I, III抗体が両方陽性の病型と抗Dsg III抗体のみ陽性の病型があるが、抗Dsg III抗体のみ陽性の症例において、Dsg I細胞内領域に対する抗体でdot状の変化が観察され、抗体結合後にデスモソーム構成分子間が相互に作用して変化する可能性を形態的に示唆する貴重な結果を得た。しかし、抗Dsg III抗体のみの尋常性天疱瘡症例の稀少さから同様の病型の検体を得ることが困難で追試がかなわなかった。そこで天疱瘡モデルマウスの口腔粘膜で検討したが、Dsg I細胞内領域に対する抗体でのdot状変化は観察できなかった。皮膚と口腔粘膜でのDsg I, IIIの局在と発現量の差の影響も否定できないため、今後はDsg I, III各々単独の抗体陽性症例での検討の集積が望まれるが、デスモソーム構成分子間の相互の関わりを強く期待する知見であると考えられた。
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