研究概要 |
GD3及びGM2/GD2合成酵素遺伝子ダブルノックアウト(DKO)マウスでは,GM3以外のすべての酸性スフィンゴ糖脂質を欠損しており,20週齢以降,顔面に難治性の皮膚炎が出現する.これまでの解析から,本DKOマウスでは幼若時より末梢神経の変性を認め,知覚神経機能の破綻が皮膚損傷増悪を惹起する可能性を示した.本研究では,DKOの神経症状や形態学的な異常と遺伝子発現プロファイルを詳細に解析し,糖鎖による神経系維持の分子機構を検討した. (1)知覚神経機能を経時的に解析した結果,温度感覚における明確な異常は確認されなかったが,幼若時より機械的刺激に対する反応の低下が見られた.しかしながら,三叉神経節や後根神経節における痛覚受容体の免疫染色の結果では,P2X3受容体の減少は認められなかった. (2)脊髄小脳における遺伝子発現プロファイリングにより,DKOマウスにおいて発現が顕著に変化した遺伝子25種を同定した.例えば,補体系遺伝子(C4,C3aR1)や炎症関連分子(S100A8,Ang1,Serpina3n)などの発現が顕著に増大している一方,末梢神経損傷時に発現誘導されるNinj2は幼若時から発現レベルが低下していた.さらに,Western blotの結果では,S100A8は皮膚損傷を発症したマウスの脊髄において顕著に発現が増大していた. また,複合型ガングリオシド欠損マウスを用いた組織形態学的な検討の結果では,末梢神経変性に加えて,脊髄後角における一次求心性線維の脱髄やグリア細胞の増殖,シナプス小胞の形態変化等を認めた.本研究結果は,知覚神経系細胞の健常な形態や機能の維持に的確なガングリオシド組成の保持が不可欠であることを示すとともに,糖鎖欠損に伴い神経系組織で発現誘導されたC4やS100A8などの変性関連遺伝子がさらなる変性を誘発し,侵害刺激伝達機構の破綻を惹起した可能性が示唆された.
|