研究概要 |
哺乳類の上皮細胞は、幾つかの殺菌ペプチドを発現して、侵入してくる微生物を殺菌することによって、生体防御に役立っている。その殺菌ペプチドの中、ヒトβ-デフェンシン(hBD)とcathelicidin LL-37が乾癬やアトピー性皮膚炎の病巣に大量に発現し、近年、これらのペプチドが注目されている。また、マスト細胞はケラチノサイトと共に、乾癬やアトピー性皮膚炎の病態に関与していることから、hBDやLL-37がマスト細胞やケラチノサイトに作用する可能性があると考えられる。しかしながら、hBDやLL-37のこれらの細胞に対する効果の詳細な検討はなされていない。そこで、hBDとLL-37のマスト細胞やケラチノサイトに対する作用について検討した。 その結果、hBD-2,-3,-4とLL-37がケラチノサイトのIL-8,IL-18,IL-20,IP-10,MIP-3α,MCP-1とRANTESのmRNA発現と蛋白産生を誘導した。一方、hBD-1の作用はなかった。また、hBD-2,-3,-4とLL-37がケラチノサイトの細胞内Ca^<2+>動員を惹起した。さらに、これらペプチドがケラチノサイトの遊走を誘導したことから、創傷治癒に関与する可能性あると考えられる。また、hBD-2,-3,-4とLL-37によるケラチノサイトのサイトカインやケモカインの産生と遊走能は百日咳毒素とU-73122で抑制されたことから、これらのペプチドがG蛋白とホスホリパーゼCの経路を介して、ケラチノサイトに作用することを示す。 さらに、hBDのマスト細胞に対する作用を調べたところ、hBD-3とhBD-4はマスト細胞の脱顆粒と遊走を惹起した。また、これらのペプチドが、MAPキナーゼp38とERKのリン酸化を誘導するとこがわかった。hBD-3とhBD-4のマスト細胞に対する作用を百日咳毒素、U-73122とMAPキナーゼp38とERKのそれぞれの阻害剤で抑制されたことから、これらペプチドがG蛋白、ホスホリパーゼCとMAPキナーゼの経路を介して、マスト細胞を活性化すると思われる。 よって、hBDやLL-37は、感染部位において殺菌作用を示すだけではなく、ケラチノサイトやマスト細胞を刺激することによって皮膚における炎症反応と自然免疫に関与していると思われる。
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