研究概要 |
背景/方法 高機能自閉症およびアスペルガー症候群の発症メカニズム解明のため,高機能自閉症罹患者(HFA)91名,その罹患者の健常同胞(同胞対照:SC)33名,定型発達者(健常対照:NC)137名を対象とした疫学的/脳科学的研究を行った。母子手帳を収集し,出産前と直後の合併症の有無,および生後2年間の身体発達について調査し,一部の被験者に対しては,磁気共鳴画像(MRI)を用いて頭蓋内各部位の体積を測定した。 結果 1.周産期合併症 周産期合併症の既往が確実である者の頻度を群間で比較したところ,HFAで25%,SCで21%,NCで17%であったが,統計学的に有意な差ではなかった。その他,妊娠,出産に関連する諸因子の出現頻度を比較したが,いずれにも有意な差はみられなかった。 2.身体発達 体重,身長,胸囲,頭囲の各値(在胎週数で調整)を,出生直後および3,6,9,12,24ヶ月目ごとに群間比較した。体重,胸囲に,有意な差は見られなかった。しかし,6ヶ月〜12ヶ月の間の身長と頭囲は,NC群よりもHFA群で平均値が有意に大きかった。6ヶ月目の身長においては,HFA>>SC=NCの傾向が観察されたが,6ヶ月目の頭囲では,HFA=SC>>NCの傾向が見られた。 3.MRI HFA1O名,NC10名(男性,右利き,年齢でマッチング)のMRI撮影を行い,全脳容積,全白質容積,全灰白質容積,小脳容積を群間比較した。いずれにも統計学的に有意な群間の差はみられなかった。しかし,全脳容積がHFA群でやや大きい傾向があった。全脳容積に年齢と相関が見られたため,これを直線回帰モデルに投入したところ,全脳容積に対する群間効果が統計学的に有意となった。この効果は,周産期合併症や高機能自閉症の重症度との有意な相互作用を生じなかった。 結論 高機能自閉症の発症に妊娠,出産関連因子は明らかな関与を示さなかった。高機能自閉症において,頭囲が発達早期に異常を示すこと,頭囲の異常発達に遺伝因子の関連のある可能性が示唆された。高機能自閉症の全脳容積は健常群よりも有意に大きかったが,既知の因子で説明されなかった。
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