研究概要 |
京都大学医学部附属病院精神科神経科およびミュンヘン工科大学・ミュンヘン大学精神科において実施した1960年代と1990年代のカルテ調査の結果を統計的に比較検討した結果、次の所見を得た。京都およびミュンヘンの両都市における大学病院精神科入院鬱病患者で患者群をカイ二乗検定で比較した結果、両都市とも1960年代に比して1990年代で罪責感が有意に減少していることが示された。また不全感は、両都市とも1960年代に比して1990年代で有意に増加していることが確認された。鬱病患者において時代と共に罪責感が減少しているという結果は、ドイツ語圏の先行研究(von Orelli, Kranz, Lauterら)による結果と一致している。また、不全感の増加は、同じくドイツ語圏においてEbertらが高齢者の鬱病で行った研究結果と一致する。本研究では、ドイツと日本にわたって同一方法で調査した結果、上記の傾向をともに確認した。不全感はうつ病の主観的症状として今後増加していく可能性もあり、将来にわたって推移を調査する必要が示唆された。また、1990年代の面接調査およびカルテ調査の質的比較から、ミュンヘンにおいて患者の罪責感の表明は、具体的他人に対するものであることが多く、京都における患者の罪責感の表明は、対象となる他者が特定されないことが比較的多いという特徴が抽出された。これらは、患者の属する文化における対人関係のあり方とその表象を反映していることが示唆された。これらの結果を、学術誌に投稿している。
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