研究概要 |
最近,CXCR4が大腸癌の肝転移にも重要な役割を果たしていることが示唆された.折しも,我々は食道癌細胞を用いて癌の浸潤と転移に重要な遺伝子をマイクロアレイ法で検討したところ,CXCR4を候補遺伝子として同定した(Cancer Sci 94:699-706,2003).そこで本研究では,CXCR4の癌転移に関するメカニズムを解明することを目的とした.ヒト大腸癌培養細胞におけるCXCR4の発現をRT-PCR法でスクリーニングした後,免疫染色法で細胞内発現局在を確認した.CXCR4は7回膜貫通型の受容体であり細胞膜での発現を予測したが,実際には,DLD-1細胞のようにCXCR4が膜発現するものと,HT29細胞のように核発現する細胞があることを見出した.我々は食道癌組織におけるCXCR4の発現も検討しているが,CXCR4が核発現する食道癌は予後が悪いという結果を得ている.したがって,癌細胞におけるCXCR4の核発現を規定する因子を明らかにすることが重要であると考えた.近年,低酸素状態の細胞に誘導される転写因子HIF-1がCXCR4の発現に関与するとの報告がある.そこでHT29細胞を低酸素刺激し,CXCR4の発現を免疫染色法およびFACS法を用いて検討したところ,細胞膜および細胞質のCXCR4発現は増強し,逆に核発現は減弱した.さらに低酸素刺激後のHT29細胞より蛋白質を細胞質成分と核成分に分画抽出し,CXCR4の発現をwestern法で確認したところ,結果は同様であった.他方,細胞過密接触によるCXCR4の細胞内発現局在の変化を検討したところ,HT29細胞におけるCXCR4の核発現は細胞接触が過密になるに従い減弱し,FACS法および核蛋白に対するwestern法でも同様の結果を得た.これらのことより,細胞過密接触または低酸素環境下にある癌細胞はCXCR4を膜に発現させることによりその場での生存を維持し,浸潤の際にはCXCR4を膜に表出せず,細胞接着を解除して転移している可能性が示唆された.現在,ヒト大腸癌組織におけるCXCR4の発現パターンと臨床病理学的因子との関連およびsiRNAを用いたCXCR4の機能解析を継続中である.
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