研究概要 |
[目的]脳組織は無酸素に曝露されると,一過性に広範囲におよぶ興奮,脱分極を起こすことが報告されている.これをspreading depression(SD)と呼び,SDと低酸素による脳・神経障害には深い関係が示唆されている. 昨年度は低体温とSDの関係について検討し,高度低体温(28℃)のみSDを抑制し,軽度低体温やマンニトールでは,SDのような急激に起こる重篤な変化は抑制できないことを明らかにした.本年度は,低体温と全身麻酔薬による相乗・相加作用について,検討を加える. [方法]Wistar系雄性ラットから海馬スライス標本(0.4mm)を作成し,CA1領域に細胞外電極を刺入した後,Schaffer側枝に電気刺激を与えてシナプス電位を測定した.標本への灌流ガスを95%O2/5%CO2から95%N2/5%CO2に切り替えることにより,無酸素負荷を与え(300秒間)SDを誘発した.負荷前より灌流液中に薬液(2x10^<-4>Mチオペンタール,マンニトール(50mM))投与または軽度低体温(32℃)条件とし,単独または2種条件下にその相乗作用について無処置群と比較した.統計学的検定には,Man-Whitney's U testを使用し,P<0.05を有意とした. [結果と考察] 1. 300秒間の無酸素負荷により,N群の87%においてSDが発生した. 2.チオペンタールはSDの発生率を44%と有意に抑制した. 3.軽度低体温,マンニトール単独ではSDの発生を抑制できなかった(それぞれ81%,90%). 4.チオペンタールに軽度低体温を組み合わせることにより,SD発生率を8%と強く抑制できた. 今回の検討により,脳虚血時の脳保護作用という観点において,チオペンダールと軽度低体温は相乗作用が示すことが証明された.臨床においてチオペンタール療法と合併症の少ない軽度低体温療法を組み合わせることにより,強力な脳保護作用を発揮できる可能性が示唆された。
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