研究概要 |
アポトーシスは個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる管理された細胞死である。慢性副鼻腔炎の発症・増悪化には線維芽細胞も重要な役割を果たしており,グルココルチコイド(GC)の慢性副鼻腔炎治療機序に,鼻茸線維芽細胞のアポトーシス誘導作用が関連しているか否かを検討した。(方法)慢性副鼻腔炎患者10症例から得られた鼻茸から線維芽細胞を分離し,各種濃度に調整したベタメサゾンとともに培養して,経時的に細胞数を計数するとともに,DNA fragmentation assayを行った。(結果)ベタメタゾンが線維芽細胞の増殖に及ぼす影響を調べたところ,1X10^<-3>M以上のベタメタゾン濃度で細胞の増殖は抑制された。しかし培養96時間後には生細胞が完全に消失する群(A)と,細胞の増殖は抑制されるものの,消失にはいたらない群(B)の二つに分けられることが判明した。そこで,培養細胞の増殖抑制あるいは消失がアポトーシスによるものか否かをDNA fragmentation assayによって調べたところ,A群では1.0 x10^<-3>M以上のベタサメサゾン添加群でDNAの断片化が観察されたが,B群ではDNAの断片化は認められなかった。また,このDNA断片化はベタサメサゾンを添加してから96時間以上の時間が必要であることも判明した。ベタメサゾンと同じGCに分類されるデキサメサゾンでは同様のDNA断片化が観察されたものの,発生の段階で器官形成における細胞のアポトーシスに関係しているというエストロジェンやテストステロンでは認められなかった。慢性副鼻腔炎患者の背景因子別にGCの臨床効果を検討すると,気管支喘息を合併したものの方が合併しないものに比べて鼻茸に対する有効性が高く,今回A群だけにDNAの断片化がみられたという結果も患者の背景因子と関係があるのではないかと推察されるが,詳細は不明である。
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