研究概要 |
SPARCは,当初骨特異的蛋白質として見出された分子量43,000の糖タンパク質である.臨床検体を用いた解析から,多くの種類の癌組織において,SPARCの発現と病期や予後が相関することが報告されている.その一方で,SPARC遺伝子を強制発現させると癒細胞の増殖が抑制されるという報告や,アボトーシスを誘導するという報告など,相反する報告が多い.私達は,SPARCノックアウトマウスと同系のB16BL6メラノーマを用いて,癌細胞の転移へのSPARCの役割について検討した.B16BL6メラノーマにアンチセンスRNAを発現させることにより,SPARC発現をノックダウンさせた細胞を樹立した.肺への転移結節は,[SPARC KO mouse×antisense導入B16BL6]よりも[SPARC WT mouse×mock B16BL6]の方が,幼弱期(4〜5週齢)において高率であったが,成熟期(>8週齢)では,あまり差が得られなかった.このことは,SPARCの有無による肺転移能の違いは,宿主側に大きな要因があることを示している.ま,SPARCは血管内皮細胞などでも発現しているにもかかわらず,肺転移に関与するという結果は,SPARC自身の生理活性が反映された結果ではなく,SPARCがプロセッシングを受け,その断片が転移に関与する生理活性を示すことが考えられた.一方,私達は,高転移性Bl6-BL6メラノーマ細胞を酸性pHの培地で培養するとmatrix metalloproteinase-9(MMP-9)の発現が誘導されることを見出し,その細胞内情報伝達にはホスホリパーゼD,MAPキナーゼ,NFκBなどの関与を明らかにしてきた.また,酸性pHはMMP-9だけではなく他のプロテアーゼの合成を誘導していることを見出した.これらのことから,SPARCは酸性環境にてプロセッシングを受け,その断片が生理活性を示すとの仮説を立てるに至った.そこで,分泌されたSPARCのN末端とC末端にそれぞれFlagとMycのタグを結合させた融合蛋白質を発現するように発現ベクターを構築し,B16BL6細胞に導入した.細胞を酸性pHで培養することで,C末端側約8-kDaが断片化して遊離することが見出された.現在,この断片の切断部位,切断酵素について検討している.
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