研究概要 |
本研究の目的は、義歯による口腔機能の回復が、脳血流動態に及ぼす影響をfunctional MRIを用いて明らかにし、無歯顎患者に対する総義歯補綴治療の効果を検証し、その治療診断基準を脳科学的観点から考察することである。 被験者は、東北大学歯学部付属病院高齢者歯科診療室に総義歯治療を希望して来院した患者である。各被験者には本研究の目的,内容および安全性について十分な説明を行い,インフォームドコンセントを得た。被験者に,総義歯を装着していない状態と装着した状態で種々の顎口腔系の機能運動を行なわせ,その際の脳血流動態を機能的磁気共鳴画像(functional MRI)にて撮像した。 結果は以下のとおりである。3ヶ月以上使用した義歯装着患者において、タッピング運動や顎運動路、噛み締め動作や咀嚼運動などの機能運動の安定が得られ、義歯による口腔機能の回復効果を検証することが可能であることが明らかとなった。また、随意的最大かみ締め時の脳血流量の総義歯装着時と非装着時での差分分析から、側頭部大脳皮質の脳血流量に差があること、さらに、各被験者が被験運動を行った際の脳血流量は、義歯を装着した場合の方が義歯を装着しない場合に比べて多いことが明らかとなった。これらのことから、総義歯装着による口腔機能の回復が、脳血流動態に影響を与えることが確認され、functional MRIにより義歯機能の評価が可能であることが示唆された。総義歯治療の診断基準を確立するためには、今後義歯形態や義歯機能の相違と脳血流動態との比較が必要と考えられた。
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