本研究では、口腔癌に対する拡大手術後の嚥下障害における、求心性入力および遠心性出力の変化に対して、嚥下中枢がどのような機能的役割をしているのか解析することを目的とした(実験1)。また、平成16年度に開発した動物モデルから延髄の小細胞性網様体へのGABA作動性投射は嚥下の制御に関与していると考えられるため、GABAニューロンの起源の候補の一つである黒質網様部(SNr)との関係を解析した(実験2)。動物にはネコを用い、ハロセン麻酔下に中脳前縁で除脳を行い、実験中は嚥下を惹起させるために無麻酔で行った。実験1:咽喉頭粘膜から延髄への感覚入力である上喉頭神経(SLN)を両側切断し嚥下障害を引き起こした。嚥下中枢が存在すると考えられている延髄の小細胞性網様体(NRPv)に抑制性神経伝達物質であるGABAの受容体拮抗薬であるビククリンを微量注入し興奮性させ、嚥下パターンの変化を記録し、嚥下中枢との相互作用を解析した。実験2:基底核の出力核の一つであるSNrに微小電気刺激を加えSLNを刺激して誘発させた嚥下の変化を調べた。結果1:嚥下中枢へビククリンを微量注入することにより、SLN刺激により誘発した嚥下の回数が増加した。結果2:SNrの微小電気刺激はSLN刺激誘発嚥下の回数を減少させた。これらの結果から口腔癌の拡大手術により咽喉頭粘膜を摘出され嚥下中枢への感覚入力の低下による嚥下障害に対して、嚥下中枢に存在するGABAを変化させることによって嚥下を惹起させることができる可能性を示唆した。また、SNrからNRPvへのGABA作動性投射は筋活動抑制系の活動を調節することで、筋緊張の制御に関わっている可能性を示唆した。
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