研究概要 |
関節炎発症の主要な役割を果たすIL-1βは,関節軟骨細胞の基質分解を強力に促進することが知られている。一方レチノイドは軟骨細胞に作用して種々の最終分化マーカーや基質分解酵素の発現を誘導することが知られている。そこでin vivo, in vitro関節炎モデルを用いてレチノイドレセプターアンタゴニストのIL-1βによる軟骨基質分解作用に対する影響を調べた。その指標として,異常な分化マーカーやタンパク分解酵素の発現上昇の変化を組織化学的,生化学的,分子生物学的手法を用いて検討した。 マウス膝関節器官培養系,マウス軟骨細胞に10ng/mlのIL-1βで刺激し,2,4,6日目に膝関節軟骨,マウス軟骨細胞の変性をin vivo, in vitroで組織学的に生化学的,分子生物学的手法を用いて検索した。関節軟骨破壊に主要な役割を担うマトリックスメタロプロテアーゼであるMMP-3,-9,-13の発現はIL-1βによりマウス膝関節器官培養系,マウス軟骨細胞共に上昇することが,免疫染色,ウエスタンブロット法により明らかとなった。IL-1βでマウス膝関節軟骨,マウス軟骨細胞を処理すると,in vivo, in vitro共にアルシアンブルー染色が減少し,軟骨基質分解が促進されていることが確認できた。さらに10ng/mlのIL-1βで48時間刺激したマウス膝関節器官培養系に10^<-7>Mレチノイドレセプターアンタゴニスト(Ro)を添加後,2日,4日目に組織学的に比較検討を行うと,IL-1βで誘導された軟骨破壊が減少していることが明らかとなった。同様に,マウス軟骨細胞においてもIL-1βによって促進される軟骨基質が10_<-7>MRoで抑制されることがアルシアンブルー染色で明らかとなった。さらにIL-1βで誘導されたMMP-3,-9,-13発現は10^<-7>MRoにより発現減少することが免疫組織学的にもまた,ウエスタンブロット法においても明らかとなった。従来の変形性関節症におけるIL-1βレセプター抗体など炎症性サイトカインを標的にした治療に対し,レチノイドレセプターアンタゴニストは変形性関節症における病的な軟骨細胞のプロテアーゼによる関節破壊に対して有効な治療法となると予想された。
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