研究概要 |
我々は、唾液腺腫瘍の悪性化過程に、腫瘍細胞におけるFGF-2の発現異常および過剰発現を伴うこと、さらに、悪性化に伴い、腺癌細胞においては、KGFR遺伝子の発現が消失し、正常唾液腺上皮細胞では発現していないFGF2の受容体遺伝子であるFGFR1-IIIc遺伝子が発現してくることを明らかにした。従って、正常唾液腺においては、上皮細胞と間葉系細胞はKGF-KGFR系を介してお互いに依存しあってその増殖、分化と機能を維持しているが、腺癌細胞は間葉系組織からまったく独立して自己増殖することが可能となり、その悪性化が強く裏付けられた。 本年度の研究では、唾液腺腫瘍癌化する過程にFGFRと連動する蛋白質群をプロテオーム解析にて検討した。唾液腺癌細胞、野生型KGFR遺伝子導入腺癌細胞およびshRNA発現ベクターを用いてFGFR1-IIIc遺伝子導入腺癌細胞からそれぞれ蛋白を抽出、蛍光標識し、Ettan-DIGEシステムを用いて二次元電気泳動した。TOF-MSを用いた質量解析の結果、野生型KGFR遺伝子導入腺癌細胞では、上昇した蛋白質は癌抑制遺伝子APCと連動するEB1,p53と連動するLITAF, bax, smacなど、低下した蛋白質はDNAの損傷、修復に関連する蛋白質TopBP1,蛋白質の分解を阻害するPI31などが含まれた。一方、FGFR1 siRNAを導入することにより、変動した蛋白質スポットが102個検出された。上昇した蛋白質にはHsp40,60,75,110など、低下した蛋白質にはNF-kb, Rb, Ku 70,80など転写因子が含まれた。次に、RT-PCRおよびWestern blottingにて、変動した蛋白質を確認し、プロテオーム解析結果と一致した。従って、プロテオーム解析法は一つ一つの分子を別々に調べて分子の側から説明するのではなく,全ての細胞内発現蛋白質を網羅的に時間軸を追って解析し,網羅的な情報を得ることができた。
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