研究概要 |
創傷治癒における組織再生および瘢痕形成メカニズムを分子レベルで解明するために以下の実験を行った。まず、創傷治癒組織において変動する遺伝子を網羅的に検索する目的で、7週齢の雌性C57BL/6マウスの皮膚に直径5.0mmの創傷を作製し、その治癒過程8日後の組織と傷付けを行っていない皮膚からRNAを抽出し、約4,000の既知遺伝子を含むDNA micro arrayによって創傷治癒時に変動する遺伝子のプロファイリングを行った。その結果、spot intensityの比率が2以上(傷付けによって発現が2倍以上上昇、あるいは減少)変動があった遺伝子の中で発現上昇を示した遺伝子が62、減少を示した遺伝子が17であった。注目すべき結果として、成長因子であるCCN(Connective tissue growth factor, Cyr61,NOV)ファミリーのメンバーであるWnt-1-induced secreted protein 1(WISP-1)の発現上昇が挙げられた。DNA micro arrayにおける結果の再現性を検討する目的で、マウス皮膚における創傷治癒0日、2日後、8日後の組織からRNAを抽出し、WISP-1の発現をNorthern blottingにて再確認したところ、創傷治癒8日後(増殖期)に明らかな発現上昇が認められ、WISP-1の創傷治癒組織における発現上昇の再現性が確認された。マウス胎児線維芽細胞(MEF)、肺および腎臓組織においてWISP-1の発現が確認できたためマウスのWISP-1のクローニングをMEFから行った。FLAGで標識されたWISP-1遺伝子を発現ベクター(pcDNA3)へサブクローニングし、WISP-1-FLAG発現ベクターを構築した。WISP-1は分泌タンパクであるため、WISP-1を過剰発現した293細胞の培養上清を回収し、MEFをその培養液下で培養したところ、有意な細胞増殖が認められた。WISP-1はWnt/βカテニン経路によって誘導され、創傷治癒における線維芽細胞の増殖にβカテニンが関与する報告があることから、WISP-1が創傷治癒組織において線維芽細胞の増殖に関与する可能性が示唆された。
|