研究概要 |
歯周病は、糖尿病患者で多くみられる炎症性疾患である。我々はこれまでに、歯周病細菌であるPorphyromonas gingivalis (Pg)に対する血清IgG抗体価の上昇は,CRP値の上昇,頚動脈内膜中膜の肥厚,そしてアルブミン尿の出現といった冠状動脈性心疾患の発症予知因子と有意に相関すること、また2型糖尿病患者の歯周治療を行うことで、血中TNF-αおよび血中CRPの減少を介してインスリン抵抗性や血中CRPが改善し、虚血性心疾患のリスクを減少することができる可能性があることを見出した。しかしながら,歯周病が動脈硬化の進行に関わる機序については,未だ不明な点が多い。 今回,動脈硬化進行の危険因子のひとつである脂質代謝に対する歯周病感染が及ぼす影響を検討することを目的に、 1.歯周病細菌Pgに対する血清IgG抗体価と中性脂肪,HDL-コレステロール,LDL-コレステロール,および総コレステロールの値との相関を比較・検討した。 結果、LDL-コレステロール値と総コレステロール値は,Pgに対する血清IgG抗体価と有意な相関があった。 2.その機序を明らかにするために、Pgおよび歯周病細菌由来LPSがヒト肝細胞癌由来細胞HepG2におけるコレステロール合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素の遺伝子発現に及ぼす影響を調べた。 結果、HMG-CoA還元酵素の遺伝子発現は、歯周病細菌由来LPSによる直接刺激では変化しないが、LPSにより単球系細胞が産生し得る濃度のTNF-αおよびIL-6刺激により増加した。 これらのことから、歯周病細菌由来LPS等の細菌抗原が肝組織における単球系細胞からのTNF-αおよびIL-6の産生性を誘導し、結果的にこれらサイトカインがHMG-CoA還元酵素遺伝子の発現量を増加させ、コレステロール合成を促進していることが考えられた。
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