研究概要 |
本研究は、看護実践として患者に対するナラティブ(語り)の実践基準を得ることを目的とした。具体的方策としては、中範囲理論Theory of Attentively Embracing Story(Smith and Liehr,1999)の日本における適応を試行し、患者が自らの疾患の体験を語ることの意義および看護実践への具体的基準を質的・量的に明らかにすることを試みた。 疾患の体験を"具体的にことばに表現すること"に関する質的調査では、大阪府下中小規模病院に入院中の、血液透析導入前後の対象者4名にインタビューを行った。結果は、Smith and Liehr(2003)にあるように、疾患を通しての日常生活体験は多様であり、「健康の変化」にもとづいて、ライフイベントに対する「個人の考え」は変化し、「感情」面は個人的特性をもって揺れ動いていた。またそれらは、過去・現在・未来の時系列にもとづく「関連性」をもっており、ナラティブの特性である「ストーリーとしての人生」を裏付けていた。 また、疾患の体験を"具体的にことばに表現すること"に関する量的調査では、Smith & Liehr(2003)およびLiehr & Takahashiら(2002)を参考に、言語データ分析ソフトウェアLinguistic Inquiry and Word Count(LIWC)の使用を試みた。上記で得られたデータについて日本語の段階での分析の可能性を検討し、英語に翻訳することを試みたが、本来英語圏で作成されたソフトウェアの日本における使用の妥当性を再考察し、使用を断念した。今後は、語彙選択の一定基準を得るために、ソフトウェアのさらなる利用可能性を探るとともに、その前段階として、量的分析に耐えうるようなインタビューデータのさらなる分析が必要であると考えられた。加えて、"具体的にことばに表現する"体験に関する患者の主観的気分の変化は、研究者からの質問を控えて得ることを目的としたが,最後に精神的安寧を得られたと答えたものが4名中2名であった。
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