ADHD児の行動特徴が母親の育児ストレスを高め、さらに養育態度に影響を及ぼすという仮説を設定し、これらに関連した母親の心理的プロセスについて検討した。ADHD児の母親36名と健常児の母親36名を対象に質問紙調査を実施した。結果は、健常児の母親と比較してADHD児の母親の育児ストレスは全ての項目で有意に高く、否定的な養育態度(不満、非難、厳格、干渉、矛盾、不一致)をとる傾向が有意に多くみられた。重回帰分析の結果、ADHD群では、ADHDに特徴的な行動(親を喜ばせる反応が少ない、不注意/多動)が母親の児に対する愛着を減少させ、さらに厳格で非難的な養育態度と結びついていることが示唆された。 なお、今回、母親の抑うつ度についても調査し、育児ストレスと養育態度との関連を検討した。しかし、親自身に関わるストレス中の「親としての有能さ」のみ、抑うつ度と相関関係が認められたが、養育態度との間には有意な関連性は認められなかった。 この知見をもとに、ADHD児の母親に特徴的な児への感情を詳細に検討するため、インタビューを行った。現在の地点で明らかになったことは、母親は懸命に療育に取り組みながらも、「できればこんなに辛い思いはしたくなかった」「普通の子どもが欲しかった」「問題行動を起こした時には、わざとやっているの?と憎らしくなる」「子どもをひどく怒ってしまっては自己嫌悪に陥る」「寝顔を見るとものすごくかわいい」のように、児へのアンビバレントな感情であった。
|