研究実績の概要 |
統合失調症の発症機序は未だ明らかでないが、妊娠期の感染や栄養状態が、統合失調症などの精神疾患のリスクを高めることが知られている。一方、脳由来神経栄養因子(BDNF: Brain-derived neurotrophic factor)およびその受容体TrkBシグナルは、精神疾患の病態に関わっていることが、多くの研究からわかっている。本研究の目的は、統合失調症のPoly(I:C)投与モデルを用いて、BDNF-TrkBシグナルの役割を調べ、妊娠マウスへのTrkB作動薬の投与が統合失調症の発症を予防できるかを明らかにすることである。 妊娠マウスにPoly(I:C)(5 mg/kg for 6 days)を投与し、3週齢で離乳して飼育する。妊娠期から3週齢の離乳期まで、溶媒あるいはTrkB作動薬(7,8-DHF: 7,8-dihydroxyflavone)を妊娠マウスに飲み水として与えた。離乳後の通常の水を与え、10週齢以降に行動評価(運動量、認知機能障害)を実施した。さらに、マウス脳部位(前頭皮質、海馬、側坐核)を取り出し、BDNF-TrkB蛋白のウエスタンブロット解析を実施した。妊娠マウスに妊娠期から3週齢まで7,8-DHFを飲み水として与え、その後通常の水に戻し飼育し、10週齢以降に行動評価を行うと、Poly(I:C)の投与で引き起こされる認知機能障害、前頭皮質におけるBDNF-TrkBシグナルの低下が予防できることを見出した。以上の結果より、母親の栄養状態が、生まれてくる子供の精神病発症に大きく関わることが示唆された。
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