研究実績の概要 |
今年度は、非整数階偏微分方程式の順問題および逆問題に対する数学解析を継続し、結晶成長と異常拡散の交差点について研究した。具体的に、異常拡散を表す非整数階偏微分方程式の初期値・境界値問題に関して、次の研究を行った。 1. 順問題:時間微分階数α∈(0,1)かつ解がスカラー値の場合は多くな先行研究があったが、下記の拡張に対する考察を展開した。(a) α∈(1,2)区間に属す場合に対して、坂本-山本による結果を改善し、解の適切性および解析性を証明した。(b) 非整数階反応拡散系を考えるため、ベクトル値の解が満たすカップリング・システムを考え、解の適切性・解析性・漸近挙動を調べた。 2. α∈(0,1)のときの逆問題:(a) 源泉項F(x,t)=f(x)R(x,t)とし、空間成分f(x)を最終時刻の観測データから決定する問題については、解析Fredholm理論によって一意性を示した。(b) 上記と同じ問題で、部分内部領域の観測データによる再構成については、離散化された最適化問題の解の存在性・安定性・収束性を示した。(c) 源泉項および係数を決定する問題に関しては、近年の成果をまとめてレビュー論文を出版した。 3. α∈(1,2]のときの逆問題:順問題の結果を踏まえ、以下の逆問題を考察した。(a) 源泉項が平行移動する場合、ソースの形状を境界全体の近傍の観測で決定する問題について、一意性を証明した。(b) 源泉項がある軌道に沿って移動する場合、有限個の点における観測で軌道を決定する問題について、条件付き安定性を示した。(c) α∈(1,2)の場合、部分境界における一回の観測によって複数の係数を決定する問題については、特殊な境界条件を課すことによって一意性を証明した。
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