全盲児童生徒への図の提供は、触図という説明的な触れる図が活用されている。それは紫外線硬化樹脂や立体コピーといった線を盛り上げる方法が用いられている。これらの方法は簡便だが情報量は限定される。そこで、これまで作成されていない情報量の多い触図、即ち筆の線によるじみやたれ、筆速や線の重なりなどを感じられる触図作製の方法を研究することを目的に取り組んだ。 作製はアクリル樹脂やUV樹脂を使って筆での模写等によって情報量の多い原型を作り、サーモフォーム(点字複写装置)によるごく薄い熱可塑性樹脂シートで触図を作製し、目的とするような感覚情報が得られるかどうか、視覚経験の異なる視覚障害者を被験者に情報の収集を行なった。 筆の線や点がイメージする微細な段差のある触図は、触察すると濃い、薄い、乾いた、湿った、滲んだ等のイメージが得られた。しかし、サイズを小さくした書や絵画の翻案物からは、それらのイメージの広がりはほとんどなく、段差のある高さの変化がノイズと感じた例もあり、評価に差が生じた。他の触図形式と比較したが、立体コピーより評価が高かったのは段差が複数作製された層構造としての空間感であった。A4サイズで翻案すると小さな高さの変化のある作成は難しく、教材の吟味を重ねることと翻案物はそのサイズを等倍以上に翻案すべきと感じた。 研究結果からは、微妙な形状や高さの変化する物から、筆を使った絵画や線のイメージをより深く広げる翻案の可能性が感じられた。サイズの問題や手作業の限界等の課題があり、さらに研究する必要はあるが、本研究で得られた知見などは、新たな触図作成機を製作した事業所、その機器で触図を作るパソコン用アプリケーションを作成する事業所等と情報交換ができ発展させられる内容を含むものだと考えている。また、視覚障害者の美術館での触図による鑑賞においても新たに提案できる内容を含んでいると考えている。
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