本研究は高濃度リン地下水の起源や混合を明らかにするため、現地ボーリング孔より揚水した高濃度リン地下水(以下リン地下水)のほか、干拓地周辺残存湖および残存湖に流入する河川水等を採水し、その酸素・水素同位体比、溶存成分を測定し、リン地下水の地球化学的特徴および形成に関与する水の起源を明らかにすること、さらに若い世代への情報発信を通して、水資源・環境への意識向上を目的とした。 各水試料の酸素・水素同位体比は、天水ライン(δD=8δ^<18>O+17)に沿ってデータが分布する。農業用水はδD=-37~-45‰、δ^<18>O=-6.6~-7.2‰、測定した試料中最も酸素・水素同位体比が高い。残存湖水はδD=-43~-48‰、δ^<18>O=-6.8~-7.7‰、周辺河川水はδD=-43~-53‰、δ^<18>O=-7.3~-8.7‰、湧水はδD=-50‰、δ^<18>O=-8.6‰をそれぞれ示す。リン湧出水の酸素・水素同位体比はδD=-47~-50‰、δ^<18>O=-7.8~-8.3‰で、残存湖西側の野石橋を除く残存湖水と馬場目川河川水の杉沢発電所と竜馬橋、あけぼの橋を除く残存湖東側から南東側で比較的集水域の小さな河口付近の河川水と類似した同位体比を示す。水素同位体比とCl^-濃度の関係は、秋田大学で毎月採水されている降水の10年間の平均値(δD=-54‰、Cl^-=7mg/l、以下降水)と南部排水機場から排水する農業用水Aと、降水と残存湖東側から南東側の河川水や残存湖水Bと2つの混合線がある。馬場目川上流域杉沢発電所の試料は、降水と同様な水素同位体比とCl^-濃度を示す。リン湧出水はA線上で直線的に分布し、採取深度の深いリン地下水GD(δD=-47‰、Cl^-=54~69mg/l、深度4.2~8.2m)と採取深度の浅いリン地下水GS(δD=-49~-50‰、Cl^-=35~40mg/l、深度2.5~3.1m)に区別される。採取深度の深いGDは、残存湖南側の防潮水門の値とほぼ一致する。防潮水門は南部排水機場から残存湖へ排水する農業用水を水位調整し、残存湖から日本海へ排水する施設である。採取深度の深いGDは、農業用水が降水により希釈され形成した防潮水門周辺の湖水と同質のものと推定される。採取深度の浅いGSは、採取深度の深いGDや農業用水が降水によりさらに希釈されたものと推定される。したがって、リン湧出水に関与する水は、南部排水機場から排出する農業用水が降水により希釈されたものが起源と推定される。また若い世代への情報発信として、現在、Line等のSNSの活用のほか男鹿市ジオパーク学習センター発行ニュースレターへの研究成果の投稿を検討している。
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