「目的」サクラソウは、江戸時代から実生繁殖や突然変異の選抜により多くの園芸品種が作出され、特異な花の形質を持つ日本独特の古典園芸植物である。観賞方法にも独自の作法があり、日本の園芸文化を考察する上でも重要な植物種の一つである。しかし、現在、これら殆どの品種の維持は愛好者の努力に頼っており、品種の混淆を防ぐよう慎重に栽培しているが、管理ミスは避けられない。一方、生理的要因や環境条件によっても花の色や形が変わることがある。それらが原因となって品種誤認されたまま維持されていることが少なくない。 そこで、本研究では筑波大学で保有している全てのサクラソウ園芸品種の品種特性を調査し、公開すると共に、サクラソウ里親制度を創設し、一般市民との共同維持によって確実な品種の維持のシステムを構築する。また、この品種特性を調査に基づいて花色や花形、咲き形の組合せが未だ存在しない新たなサクラソウ品種の作成の可能性を探る。 「方法」大学保有のサクラソウ園芸品種301品種中、2016年に開花した289品種について、開花1週間後の開花最盛期に花器の形質を調査した。調査項目は、花冠向軸面(表)および背軸面(裏)の花色(紅色、桃色、紫色、とき色、白色)、花弁の形(並弁、重ね弁、元細広弁、細弁、広弁)、花弁先端の形(桜弁、丸弁、梅弁、かがり弁)、花容(平咲き、盃・采配咲き、抱え咲き、つかみ・玉咲き、梅咲き、狂い・星咲き)、花の向き(受け咲き、横向き咲き、うつむき咲き、垂れ咲き)、および2段咲きと多茎咲きの発生状況である。品種の特徴として2段咲きと多茎咲きに着目し、各品種12株ずつ調査し、2段咲きと多茎咲きになった株の割合を算出した。 「成果」極端に少ない花器の形質は、花弁の形が細弁、弁先の形が丸弁と梅弁、花容が盃・采配咲きと梅咲き、花の向きがたれ咲きであった。さらに花色を加えて組合せを調査した結果、梅弁・梅咲きは表裏同色の品種のみで表裏異色の品種がなく、盃・采配咲きは表裏共に白色の品種がないと明らかになった。加えて、表有色裏白色の品種も存在しなかった。また、2015年から2年連続で3割以上の株が2段咲きとなった品種は6品種、5割以上が3品種確認された。2年連続で3割以上の株が多茎咲きとなった品種は1品種、5割以上が2品種確認された。今後、これらの成果を大学HPで新たに情報公開し、一般市民へ説明する。また、これまでにない形質組合せの交配育種により観賞価値の高い品種作出も試みる。
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