グラム陽性菌である枯草菌(Bacillus subtilis : NBRC13719、NBRC3009)においては、ナイシン50μg/mLの単独処理で生存率が10-4^程度にまで低下し、抗菌効果が見られたものの、それにシンナムアルデヒドを3.2μMまで追加添加したことによる抗菌効果の促進は見られなかった。また、グラム陰性菌である酢酸菌(Acetobacter aceti : NBRC 3281)においては、ナイシン50μg/mLの単独処理では生存率が低下せず、抗菌効果が見られない上に、それにシンナムアルデヒドを3.2μMまで追加添加した場合も、大腸菌での結果とは異なり、抗菌効果の促進は見られなかった。このことから、シンナムアルデヒドは外膜のないグラム陽性菌ではもちろん、外膜のあるグラム陰性菌に対してもナイシンの抗菌効果を促進しない場合があることを示すことができた。これは、大腸菌で見られたシンナムアルデヒドの作用が、大腸菌の外膜に対して特異的なものであるか、酢酸菌においてはシンナムアルデヒドは外膜に作用しつつも、その他の何らかの要因によってナイシン耐性の形質を持っている可能性を示唆している。いずれにせよ、今回得られた知見を基に、大腸菌と酢酸菌の外膜構造の違いを解析したり、酢酸菌におけるナイシンの行方を追跡することでよりナイシンを効果的に作用させるような条件の検証に繋がっていき、食品保存料としての消費者の理解や利用の拡大へと繋がっていくと考えられる。また、今回は学校現場においてナイシンの抗菌効果を検証する研究を行ったが、今回得られたデータを基に、将来的に理科教育現場での特に探究活動での教材として昇華させていくことで、児童生徒の科学的思考力などの向上に資するだけでなく、将来の生命科学、食品化学、医学分野を支える研究者養成の一助となる点で意義のある成果であったと考える。
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