【研究目的】 不眠症治療においてベンゾジアゼピン(BZD)系睡眠薬は最も頻用される薬剤であるが、うつ病患者の脳内でGABA含有量が低下していることが複数報告されており、薬理作用に内因性GABAを必要とするBZD系/非BZD系睡眠薬はうつ病に起因した二次性不眠症に対する効果が十分に発揮できない可能性が指摘されている。更に、うつ病の症状特性によってもGABA低下量が異なるという報告もある。つまり、症状特性によってBZD系薬剤の効果に差がある可能性があり、この症状特性を明らかにすることは適正な睡眠薬の選択に寄与すると考えている。本研究では、うつ病に起因した二次性不眠症に対する各種睡眠薬の使用状況および治療効果についてレトロスペクティブに調査・解析を行い、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)との相関を明らかにすることで睡眠薬の適正使用につなげることを目的とする。 【研究方法】 各種睡眠薬を使用しているうつ病患者を電子カルテよりレトロスペクティブに調査し、睡眠薬の種類および使用量とうつ病重症度との関係を検討する。当院において看護師は、入院患者を1時間毎に確認、電子カルテに記載しており、この情報をもとに睡眠時間および夜間覚醒回数を調査した。さらに、HAM-Dの各項目と睡眠時間との関連も評価した。 【研究成果】 HAM-D評価項目のうち、睡眠関連項目と睡眠時間は相関が見られた。さらに、不安関連項目の合計点数が高い群は睡眠時間が有意に短かった。また、睡眠薬の投与量が多い群ほど睡眠時間が有意に短く、さらにブロチゾラムやエスゾピクロンの投与率は睡眠障害の重症度と相関していた。これらの結果から、うつ病に併発する不眠症の重症度が高いほど睡眠薬が多く処方されるが、十分な効果を発揮できていない可能性が示唆された。今後は、この成果に基づき、プロスペクティブな調査・解析を行う必要があると考える。
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