研究目的 がん治療に伴う副作用は新規治療法の開発に伴いその様相が変化している。腫瘍崩壊症候群(TLS)は致死的な有害事象であるが、薬剤と発症リスクの関連性は未だ不明な点が多い。そこで、TLS発症と薬剤との関連性について医療データベースを用いて解析した。 研究方法 シグナル検出のアルゴリズムとしてはReporting Odds Ratio(ROR)を用いて、64種類の抗悪性腫瘍薬とTLSの関連性について、2004~2014年第二四半期の米国FDA有害事象データベース(FAERS)から約430万件の報告を解析した。また、名古屋市立大学病院の診療データを用いて、後方視的調査をおこなった。 研究成果 解析対象となった抗悪性腫瘍薬64種類中54種類にTLSの被疑薬である可能性が示唆された。また、最もRORの高いとして、ボルテゾミブの薬剤名がピックアップされた。ボルテゾミブは主に多発性骨髄腫に使用される分子標的薬である。多発性骨髄腫はTLS低リスク疾患と評価されてきた。 ROR等の従来のシグナル検出の問題点として、抗悪性腫瘍薬は多剤併用で使用されている場合が多く、疑陽性の結果を検出してしまう危険性が高まると考えられた。そこでNCCN Chemotherapy Order Templatesに記載のある薬剤の組み合わせに注目した。この組み合わせごとのTLSとその他全有害事象の報告数を算出し、オッズ比を再計算した。その結果、多発性骨髄腫におけるTLS発症に寄与する薬剤はボルテゾミブのみが残り、サリドマイドやレナリドミドのような免疫調節薬はリスクが低い可能性が示唆された。 がん化学療法が施行された多発性骨髄腫患者199名の診療情報においては、TLSの発症はボルテゾミブとそれ以外の治療の2群間では、ボルテゾミブ群で発症例が多かった。現在、ロジスティック回帰分析により、予防薬の有無等の背景因子の補正を行い、ボルテゾミブが多発性骨髄腫におけるTLS発症のリスク因子となりうるか注意深く検討を進めている。
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