【目的】 妊婦・授乳婦への薬物療法に関する問い合わせには、専門的知識や深い経験を要するため、薬剤師の経験や能力に左右されない情報提供体制の整備が必要である。そこで本研究は、九州大学病院医薬品情報室(当院DI室)で既構築のデータベース(DB)を活用し、妊婦への薬物療法に関する情報の収集・評価・提供のプロセスを標準化する新たな情報提供システムを構築することを目的に行った。 【方法】 当院DI室ではMicrosoft Office AccessR2010を用いて、医薬品情報と質疑応答データを統合したDBを構築している。まず、妊婦に関する質疑応答データ(272件)および妊娠と薬外来での相談事例(32件)を解析し、質問頻度の高かったベンゾジアゼピン系薬剤、選択的セロトニン再取込み阻害薬、プロトンポンプ阻害薬、H2受容体遮断薬を対象薬とした。そして、添付文書、国内外書籍、文献報告などから妊婦薬物療法に関する疫学研究情報を収集し、データベース化することにより「妊婦DB」を構築した。さらに、収集した情報を総合的に評価し、実際の妊婦への対応について妊婦DBに登録した。妊婦DBに登録したすべての情報と評価した内容は、1薬剤につき1枚のシート(妊婦医薬品情報シート)に表示させた。 【成果】 本研究において計34薬剤を対象として、質疑応答データの9%、相談事例の24%の薬剤を妊婦DBに登録した。妊婦DBの構築により、妊婦薬物療法に関する医薬品情報を一元管理することができた。また、妊婦医薬品情報シートの表示により、必要な情報とその評価、問い合わせ時の実際の対応について速やかに入手することが可能となった。 今後さらに対象薬剤を拡大し、授乳婦への薬物療法においても同様のシステムを構築することにより、妊婦・授乳婦薬物療法に関する医薬品情報の一元管理や、必要な情報の速やかな入手・評価が可能となることから、より簡便で標準化された妊婦・授乳婦薬物療法の情報提供が期待できる。
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