皮膚・体毛の着色はメラノサイトによる。メラノサイトは、発生学的には背側に生じる神経冠細胞を起源とするメラノブラストが表皮付近を通って腹側に遊走・分化した結果生じる。この過程のいずれかの段階に関わる遺伝子に変異が生じると、マウスにおいては体色異常の表現型を示す。マウスに白斑を生じる原因遺伝子は複数知られているが、その多くのものはヒトでは疾患遺伝子となる。発表者は、遺伝子改変マウスの系統管理を行う過程で腹部に白斑があり、尾部と四肢の先端の色素沈着が低下している個体を偶然発見した。この表現型は常染色体優性の遺伝形式を取り、浸透率は100%と考えられた。白斑をもつマウスの3-5%程度にはいわゆる'curly tail'(尾部が螺旋状に折れ曲がる)が現れた。一般にはこの表現型は神経管閉鎖異常の兆候と考えられており、白斑出現と考え合わせると正常な神経管の閉鎖に必要とされる細胞分裂や細胞移動、あるいは神経冠細胞の移動やメラノブラストやメラノサイトへの分化の異常があるものと推測された。各種近交系系統の全染色体をカバーする多型マーカーパネルとこれらを高速にタイピングするための実験系が理研バイオリソースセンターのグループにより開発されている。このシステムを利用した連鎖解析により、原因変異が存在するゲノム領域を絞りこんだ。さらにシグナルが得られたマーカー近傍の5つのSNPマーカーに関して、それぞれgenomic PCRを行ったあとサンガーシークエンスにより遺伝子型の判別を行い、詳細マッピングを試みた。最終的にPax3遺伝子のエクソン1を含む841塩基対からなる領域に欠失を見出し、それを原因変異として同定した。本マウスは同じ遺伝子に変異を有するWaardenburug症候群等の疾患モデルマウスとして有用である。
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