研究実績の概要 |
研究代表者らは、これまでに約8,000匹ものランダム突然変異マウスの睡眠覚醒行動をスクリーニングし、睡眠時間が顕著に増加するマウス家系を樹立した。 さらに検討を進め、Sik3遺伝子の一塩基変異が顕著な過眠の原因となることを明らかにした(Funato, Kanno et al., Nature 2016)。SIK3はAMPキナーゼ関連キナーゼに属するスレオニンキナーゼである。 研究代表者は、Sik3変異マウスの飼育管理を担っており、この変異マウスが肥満を示すことに気づいた。さらに、Sik3変異マウスが多尿を呈することから、糖尿病を疑ったところ、尿糖および高血糖を確認することができた。Sik3遺伝子は、これまで肥満や糖代謝異常との関連が知られておらず、これらの代謝を制御する新しい分子である。また、興味深いことに、Sik3遺伝子欠損マウスは、ほとんどが生後1日で死亡し、生存したマウスも顕著な低成長を示すため、これまでSIK3の成獣における役割は不明であった。 これらのことから、われわれの見い出したSik3変異マウスは、睡眠覚醒行動に加えて、肥満、糖尿病のよい動物モデルとなり、このマウスを通じて、SIK3の成獣における役割を明らかにすることができると考えた。人工授精によって、野生型およびSik3遺伝子変異マウス(ヘテロ接合体、ホモ接合体)について、5~10匹の雄マウスを用意し、4週齢での離乳後から、体重を毎週、血糖値を4週ごとに測定した。 その結果、16週齢程からヘテロ変異マウス、ホモ変異マウスは顕著に体重が増加し始めた。ホモ変異マウスにおいては血糖値も加齢に伴い上昇していくことが明らかとなり、特に18週齢を超えてからは、重度の糖尿の数値がたびたび検出された。 固形餌から、小型餌瓶に入れた粉末餌に切り替えて、摂食量測定を開始したが、粉末餌に切り替えると顕著な体重減少を示した。新規形状の餌への警戒が高まったためと考えている。固形餌のままで正確な摂食量を測定できるシステムの使用など、Sik3遺伝子変異マウスに適した摂食量測定法を確立させる必要がある。今後の計画としては、Sik3遺伝子欠損マウスは軟骨形成に異常があることから、3D-CT撮影を行い、加齢に伴う内臓脂肪および皮下脂肪、骨密度の変化を継続的に測定していく。
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