[研究目的] 近年、従来法に比べ簡便かつ短期間での遺伝子改変動物の作製を可能とするゲノム編集技術の一つ、CRISPR/Cas9システムが注目を集めている。しかしながら神経細胞等の非分裂細胞での遺伝子改変は困難であることが知られており、その編集効率は未知である。本研究はマウス成体脳における組織特異的なゲノム編集を高効率でおこなうことを目的とし、アデノ随伴ウイルスを利用したCRISPR/Cas9による遺伝子ノックアウト法の効率化を検討した。 [研究方法と結果] マウス成体脳への遺伝子導入ベクターとしてアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いた。本研究ではAAV-CRISPR/Cas9およびAAV-gRNAの2種類のAAVを用いてゲノム編集を試みた。8週齢マウスの海馬歯状回領域にAAVを直接注入感染し、4-5週間後にウイルス感染細胞を回収し、ゲノム抽出をおこなった。標的配列の前後で設計されたプライマーを用いて増幅したPCR産物の配列情報を簡易的にサンガー法で解析し、さらに次世代シーケンサーで大規模なゲノム編集解析を行った。その結果、解析した標的ゲノムフラグメント総数の15%程度において様々なパターンのinsertion/deletionが確認され、マウス大脳の成熟神経細胞においてもゲノム編集が可能であることが確認できた。今後は編集効率改善を目指し、1つの標的配列に対して複数のgRNAを搭載したウイルスベクターを作製する予定である。また、時期・組織特異的な発現誘導を可能とするウイルスベクターにCRISPR/Cas9を搭載し、新たな研究ツールとしての可能性を検討する。本研究のウイルスによる遺伝子改変技術は様々な組織に応用可能であり、基礎研究のみならず疾患モデル動物の作製にも大変有用な技術である。
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