CGRPは、カルシトニン遺伝子のalternative splicingによって作られる生理活性ペプチドである。CGRPは中枢および末梢神経系に多く分布し、これまで主として、感覚神経の神経伝達因子や、血管周囲神経から分泌される血管拡張因子として捉えられてきた。その一方で、CGRPは、多彩な生理活性を有するペプチド因子、アドレノメデュリン(AM)のファミリー因子と考えられており、さらに両者は受容体を共用していることも明らかとなってきた。我々はこれまで内因性AMの脳虚血における神経保護作用を報告してきた。一方で、CGRPの脳虚血における意義は不明である。本研究では、CGRPノックアウトマウス(CGRP-/-)を用いて、片側中大脳動脈閉塞による虚血再灌流(MCAO)モデル、両側総頚動脈狭窄による慢性脳低灌流(BCAS)モデルを作成し、内因性CGRPの病態生理学的意義を検討した。 MCAO処置後、野生型マウスでは大脳皮質でのCGRPの発現充進を認めた。MCAO処置後のCGRP-/-では、野生型に比較して脳血流回復遅延を認め、炎症性サイトカイン発現と神経細胞死が亢進していた。一方、BCAS処置後慢性期の脳血流の検討では、野生型では、術後28日まで術前の80%程度の血流が維持されていたのに対し、CGRP-/-では緩徐な低下を示し、14日以後の血流量が有意に低下していた。CGRP-/-では、BCAS後慢性期の体重減少を認め、神経細胞の減少・変性、脱髄亢進、血管新生低下、アストロサイトの活性化、酸化ストレスレベルの亢進を認めた。CGRP-/-では、8方向放射状迷路において、所要時間の延長を認め、作業記憶および参照記憶エラーが増加しており、認知能の低下が確認された。 以上の結果から、内因性のCGRPは脳虚血において神経細胞に対し保護的に働き、高次機能維持に寄与していることが明らかとなった。
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