研究実績の概要 |
ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群(MELAS)は我が国における難病指定を受けたまれな疾患である。MELAS心筋はミトコンドリア異常の影響を受けやすいと報告されているが、他の疾患と鑑別に至る特異的な心エコー所見は未だ検討されていない。本研究の目的はMELAS心筋における特徴的所見の検討を行うと共に、エコー性状が類似している心アミロイドーシス(CA)との鑑別点を検討することである。また、両疾患の左室拡張能を評価する上で重要となるASE左室拡張能ガイドライン(GL)が2016年に改定されたため、GLによる左房圧推定の予測精度検証を行った。 1. MELASと確定診断された10例に対し、心エコーにおけるデータの収集および解析を行った。全例(39±13歳, 男性50%)とも左室駆出率は良好に保たれていたが、10例中6例(60%)で求心性左室肥大(123±54g/㎡)を認め、その内の5例(50%)において心筋内高輝度エコーを伴っていた。また6例(60%)で拡張機能障害を呈し、左室長軸方向ストレイン(GLS)(-16.6±4.7%)は6例(60%)で低下を認めた。MELAS成人例における心エコー所見は心筋内高輝度エコーからなる左室肥大と左室長軸方向機能障害および拡張機能障害が特徴的であった。2. MELASと同様にCAと確定診断され、左室駆出率≧50%の27例のデータ収集および解析を行い、MELAS群とCA群における2群間比較を行った。左房容積係数(23±7.4vs. 51±26ml/㎡ p=0.004)、e'(9.7±3.8vs. 5.7±2.3cm/s p=0.007)、GLS(-16.8±4.7vs. -12.0±3.7% p=0.005)となり、MELAS群と比してCA群は有意に低値を示し、鑑別の一助となる可能性が示唆された。3. 心エコーと右心カテーテルを24時間以内に施行した連続82症例に対して新旧GLに準じて左房圧上昇の有無を推定し、平均肺動脈楔入圧≧15mmHgを左房圧上昇と定義し予測精度検証を行った。旧GLでは感度81%、特異度75%であり、新GLでは感度92%、特異度69%となった。新GLは旧GLと比較して限られた心エコー指標を用いているにも関わらず、左房圧予測精度は比較的良好に保たれていた。今後も継続してMELAS症例を集め、詳細な解析が必要である。
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