○研究目的 : 骨髄増殖性腫瘍(MPN) は多能性造血幹細胞の異常に起因し、骨髄などにおいて複数系統の血球増加を認める疾患群である。近年、次世代シークエンサ(NGS)等を用いた網羅的変異解析により、JAK2/MPL/CALRの3変異がその90%以上に排他的に認められる事が明らかになった。現状ではMPNの遺伝子変異検索は研究機関ベースで行うしかない。本研究では、NGSによる自前の迅速/安価なMPN遺伝子検査法を開発、提供する事を目的とした。 ○研究方法 : 試行錯誤の結果、NGSでは遺伝子数を限定しても1検体あたりのランニングコストを5万円以下に下げることは困難であり、MPNの安価な検査法の開発という初期目標を達成できなかった。そこで、本研究では新規変異検出法としてデジタルPCR法に注目した。まずMPNの半数以上で検出され、主要な変異で診断と治療に有用なJAK2p. V617F変異の迅速かつ安価な検出法の実現とその開発に目的を修正する事にした。デジタルPCRは現有機器のQX200(バイオラッド社)を用いることとした。検出法は感度、特異度とも優れるprobe法を用い、V617野生型、p. V617F変異型をそれぞれFAM、HEXで蛍光標識した試作probeを作成した。解析検体はJAK2p. V617F変異がサンガー法で検出されている実際のMPNの患者検体をポジコンとして用いた。以上によりデジタルPCR法によるJAK2p. V617F変異アレルの検出によるアッセイの検証を行った。 ○研究成果 : 本手法により初期のprobe作製にかかった費用は4.6万円、ランニングコストは700円/回/sampleであり、安価な検査法という目的を達成した。また検査時間はDNA抽出を除いた場合試薬調整、検査時間2時間以内であり、こちらも目的を達成できた。また、限外希釈法で検証した検出感度は実に0.01%であり、サンガー法の10%、NGSの1%を大きく上回った。また、NGSで測定した場合とのアレル頻度の一致率はピアソンの相関係数0.81(P<0.01) と極めて良好であった。以上により迅速かつ安価なMPN検査法の開発という本研究の目的は達成し得た。また本測定法は従来法より極めて高感度であった。今後はCALR遺伝子など対象遺伝子を増やして検証していきたい。
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